はじめてのカラスミづくり 

2018年の皆さん初めまして、皆さんの自己同一性は年明けを乗り越えることができましたか?僕はできました。


これは2017年に行った活動なのですが、ボラの卵巣(ボラコ)を手に入れる機会があったのでカラスミを作りました。動物性の物を干すのは初めての経験だったのでインターネットのさまざまなパワーに頼りながら作りました。インターネットにはいろいろなパワーが存在しているために適当に情報をかいつまみました。結果として上手くいったと思います。

この記事では今回のカラスミの作り方と実際の様子をまとめていきます。

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作成の記録
簡単なカラスミづくりの流れを先に説明しておくと、塩漬け→塩抜き→干す です。なんかいけそうですね。

初日
ボラコを購入しました。ボラの卵巣は写真のように2つで1セットになっています。お得ですね。左右相称動物の左右相称な臓器最高!


卵部分は長さ20mぐらいだった気がする

右にあるボラの切り身の部分からそれぞれのボラコに向かって太い血管が伸びていて、それらはいくつも枝を出しておそらくボラコ中に栄養しています。この血管中にボラの血が残っていると出来上がるカラスミの臭みが増すから血を抜いたほうがいいということをインターネットパワーで知りました。血を抜くのには「針で血管に穴をあけてある程度扱き出した後に氷水にしばらくつけておく」という手法を使いました。
血抜きを行う際に気を付けなければいけないこととして、ボラコの表面の皮を破ってしまうと中の卵の一粒一粒があふれ出して大変なことになってしまう、ということがあるようです。血抜きをしてみた感じだとまっすぐ走っている大きな1本の血管は眼科ばさみを用いて切り開くことも十分できそうな感じの広さがありましたが、そこから出ている細い血管の血抜きをするときにはあんまやりすぎないようにしたほうがよさそうです。血の量も大したことないし。

血抜きが終わったボラコは粗めの塩で曖昧にこすって洗って曖昧にヌメリを落とした後にタッパーに入れて塩漬けにしました。インターネットを見ると塩漬けするときには表面にまぶす程度にしておいて毎日水を取り替えるみたいなのが基本セオリーみたいですが、塩の量が足りなくて失敗したら嫌だったので塩に埋めちゃうことにしました。

 
衝動的にカラスミを作り始めたので曲げずにボラコを入れられるタッパーが無い

塩としてはコンビニで買った「赤穂の粗塩」をたぶん250gぐらい使いました。
ここまでが1日目です。タッパーは蓋をして冷蔵庫に入れて放置しました。

3日目
浸透圧の影響でボラコから水が染み出てきます。塩を表面にまぶす方式では毎日水を捨てないといけないっぽいですが、塩に埋めて作るようにしたら染み出てくる水の量に対して塩が保持できる水の量が多かったようでそんなに水を変える必要はなさそうでした。ただ3日目になると容器の横から見ると水がある程度染み出てきていることが確認でき、その水が生臭いので(生の魚卵由来の水なので)、まあ塩を変えるかという気持ちになり下の方の濡れている塩を捨てて新たに塩を追加してボラコを埋め直しました。この時ボラコはある程度硬くなっていました。一応ボラコの天地を今までと逆にして埋めてみるなど、勘に頼ってそれっぽくやりました。

7日目
塩漬けの終わりの日が来ました。7日で塩漬けを終わりにするというのはインターネット集合知を覗いた感じ1週間ぐらいでよさそうという知見が得られたからです。この時点でのボラコの様子はこんな感じでした。


一面の粗塩銀世界、その下に埋まっているのはボラコ?それとも……

ここからこれを取り出して表面の塩を落とした後に塩抜きをします。塩抜きをするときに日本酒を使うと香りがついてよいという話を聞き、ここは日本酒使ってやろうじゃないかという気持ちが芽生え、その気持ちは花を咲かせて実をつけました。その結果日本酒を使って塩抜きを行うことになりました。
出不精な性格と日本酒をもったいなく思う性格とギュウギュウの冷蔵庫が相まって塩漬けに使ったタッパーを塩抜きに使うことになりました。
まず真水に曖昧にちょっとの時間つけて表面の塩を洗い流しながら曖昧にちょっと塩を抜きました。インターネット文殊によると日本酒と焼酎を混ぜた液体で塩抜きをしているものが多く、僕は焼酎に関する知識レベルがこの世に関する新生児の知識レベルと同等なため困りました。焼酎を買ってみたらその香りが強くて日本酒の香りが消えちゃったらどうしようみたいなことを考えた結果、アルコール度数が似たようなもんだと思われるウォッカと日本酒を混ぜた液体に浸けることにしました。そもそもアルコール度数が重要なのかということすらわからないのですが、まあとりあえず従来の手法に近いものをやってみようという判断です。目の前のものを大事にすると科学の発展は遅れがちですが、やはり目の前のものは大事です。

一ノ蔵特別純米酒超辛口とギルビーのウォッカ

タッパーにボラコを移し、浸るぐらいの日本酒とウォッカを1:1になるぐらいに入れました。ボラコは曲がった状態で固まっていました。

水分を奪われてしまったボラコ。その心は頑なに閉ざされてしまい、曲げようとしても必死に抵抗される。

ボラコについていたボラの切り身部分ですが、邪魔なのと変なにおいがするのとで取り除いちゃいました。取り除く時にボラコの皮が破れてしまうと、生まれるはずの命を失ったボラの子供たちの怨念がこぼれだしてしまうことになるため、皮を破かないように慎重に取り除きました。命って何だろう。
この状態で塩が抜けるまで冷蔵庫に放置しておくことにしました。


問題があり、タッパーの容積に対するボラコの体積が大きすぎると塩抜きするために日本酒に浸けておいてもすぐにボラコ外の塩分濃度がボラコ内のそれと一致してしまって塩が抜けないのではないかという話があります。

10日目
塩抜き4日目です。ボラコが酒で戻されて膨れてきました。触ってみると芯に硬いところがあるものの表面は柔らかくなっていて、曲げようと思えばボラコの機嫌をうかがいながら曲げられなくもない、という感じでした。


水分を取り戻してきたボラコ。しかしその心の奥のわだかまりが解消したわけではない。

11日目
ポーズを変えました。


普段は見せない表情にドキリ。あんなに可愛かったっけ?

12日目
塩抜き6日目にして塩抜きをやめて干し段階に移行することにしました。浸けていた汁をちょっと舐めてみると魚卵のうまみが酒に溶けだしていていい感じ(そのぶんボラコからうまみが失われてそうでもったいない)でしたが、結構しょっぱく、先ほど問題として挙げたように塩抜きが不十分な可能性が浮上しました。ボラコの芯もまだ硬かったし。そこでちょっと水に浸けて塩抜き足りない分を塩抜きしてしまおうと思い、水に浸けました。


窮屈な枠から飛び出してバカンスでのびのび

これを行ったところ塩抜き不全と思われるボラコの硬さはある程度解消されましたが、浸けていた水からおいしそうな匂いがしていたのでうまみを失った可能性があります。この工程の是非は怪しいです。
その後水から上げて上からまな板を載せて形を整え、キッチンペーパーをしいたまな板の上に載せて冷蔵庫内に入れました。干し工程のスタートです。この工程の間は冷蔵庫内に匂いが強い食材を入れないように一応気を付けることになります。

水から上げた直後の姿と軽く押しつぶして成型した後の姿 社会人1年目の趣

ボラコを漬けていた酒はいい味のする料理酒として何度かに分けて使いました。大根を煮たら旨かった

15日目
干し始めて3日目ぐらいです。たまには外の世界を見せてやりたいと思って天日干ししてみることにしました。干し網みたいなものがあればよかったのですが無かったので排水溝に使うネットと洗濯バサミがたくさんついたやつを組み合わせています。


「日向ぼっこはあったかいね」と隣に座る太陽が微笑んだ

この時点でカラスミの表面の皮は割と固くなっています。変なしわがついたのを直したりカビを防いだりする狙いで曖昧にウォッカを表面に塗ったりしていました。
24日目
大分飛びましたが干し終わりです。冷蔵庫で干したり天日干ししたり卵巣間の乾燥しにくそうな部分を広げたり残っていたいらない組織を取り除いたりしていたら24日目になり、なんかよさそうな気がしたので干すのを終えることにしました。

乾ききった君の心の中に旨味が詰まっていることは僕だけが知っている

ついに食べることができるということで薄切りにして食べました。炙ったものと炙ってないものを比べると、炙っていないものの方が日本酒の香りが感じられ、炙ったほうが癖がなくなり単純に魚卵の旨味を感じることができる というような結果になりました。この時点ではまだ卵1つ1つの粒がある程度感じられる状態でした。

薄切りにしたものと薄切られたもの

切り口がおいしそうでめっちゃ幸せな気持ちになった。我々は物事を切り口からのみ判断するので。

この時点でカラスミ制作は一応成功裏に終了ということになります。とはいってもこの後もカラスミは冷蔵庫内に放置して保存したため干し工程は続けられました。時間がたつとともに魚卵のつぶつぶ感は感じられなくなっていって、全体的にねっとりしてきます。どっちが好みかは人によると思いますが、日本酒の香りが強く残っていることもあり僕はそんなに時間がたっていないものを食べるほうが好きかもしれません。なんにせよ自分でカラスミを作って毎日ちまちま食べる行為はなかなか幸せ力が高く、旨味は強い。

食べ方
薄切りにしたのをちまちま食べてるだけでも楽しいのですが、それ以外にもいろんな使い方があるようだったので何種類か試してみました。
カラスミ大根
この記事のサムネイルにもなっています。桂剥きにした大根をカラスミの薄切りと似たようなサイズに切り、大根でカラスミを挟んで食べます。大根のあっさり感とカラスミのねっとり感がいい感じになってとてもおいしい。友達何人かとこれを食べた時にはカラスミを炙ったほうがいい派と炙らないほうがいい派に分かれました。

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うめ~。一緒に飲んだ日本酒も美味しかった。紙パック大五郎は異常な味がした。紅星 二鍋頭酒はもっと異常な味がした。

パスタ
和風だしと玉ねぎと海苔をいいかんじにやった和風のパスタに鰹節とカラスミを細かく切ったやつを振りかけて食べたらおいしかったです。加熱によってカラスミの風味が失われるのでカラスミは最後に入れるのがよさそう。今回はカラスミがまだ柔らかかったこともあり包丁で細かく切りましたが、もうちょっと乾燥させてからおろし金で削りまくってパスタにかけまくったらもっと良さそう。

他の食べ方
今回は1セットしか作っていないことや友達と家族におすそ分けしたこともあり上記以外の食べ方は試してないんですが、「削ったものをモチにかけるとおいしい」「とにかく旨味がつよいので旨味ブースト剤として料理に振りかけると旨味がブーストされて脳に良い」などの知見がインターネットから得られています。


感想
次作る機会があったら大量生産したいです。もったいないと感じることなく無慈悲にカラスミをおろし金にかけ続ける、そういう魚卵ブルジョワに私はなりたい。ボラを釣るところから自分でやったらもっと楽しいかな~とかボラ以外の卵巣を使って作っても楽しそうだな~とか思ってます。あと日本酒以外の酒で香り付けするとか、もっと塩を濃くして固く干してごはんにかけるふりかけみたいに使うとか、いろいろやってみたいことはあります。この記事はあくまで1例なのでこれの通りにやってうまくいくかはわかりませんが、興味を持った人はインターネット集合知を参考にしながらやってみてください。周囲にカラスミを作る人はあんまいないので話題としても強いし、出来上がるまでの1ヶ月弱をワクワクした状態で過ごすことができます。辛口の日本酒にも合うと思うので宅飲みパーティーに是非。魚卵の旨味、最強っぽい。