そもそも大腸菌に遺伝子を導入するとは

実験操作や概念の説明、一般編です。

 

「iGEMでは大腸菌に遺伝子を導入して自分で予めデザインしたような機能を持つ大腸菌を作り出すという活動をしています」とサークルの紹介文や説明会で僕は何度も言ってきました。しかし実際大腸菌に遺伝子を導入するというのがどういうことなのか、外来遺伝子がどうやって働くのか、そもそもDNAがどう大腸菌の性質に関わってくるのかを分かっていない人がたくさんいるように思えます。この記事では、そこらへんについてほとんど聞いたことがない人やなんども聞いたことがあるはずなのに全然わかっていない人にむけて、igemの活動を理解するのに必要最低限+αの説明をしていきます。不正確なところもあると思います(できるだけ減らします)。自信のないところは自信なさそうに書いていきます。

 

 

大腸菌は小さな細菌で、われわれヒトやカビ、サクラ、ゾウリムシ、コンブ、放散虫、ミドリムシなどとは違う原核生物です。いろいろ省いた大腸菌の概略図は次のような感じです。

 

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一番外側の黒いものが大腸菌の輪郭だと思ってください。その中に紫のものがありますね。これはDNAです。左側の長い紫の環状の紐みたいなものがゲノムDNA、右側に2つある小さい環状のものがそれぞれプラスミドと呼ばれているものです。見た目の通り、プラスミドはゲノムDNAに比べてだいぶ短いです。ゲノムDNAは細胞ごとに1つしかありませんが(たぶん)、プラスミドは複数個あります(2つだけとは限りません)(たぶんどの細胞にもいくつかあると思うけれど本当に全部の細胞にプラスミドがあるのかは知りません)。

我々が大腸菌に遺伝子を導入する時は、導入したい遺伝子が入っているプラスミドを大腸菌に入れる、という手段をとっていました。 

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入ったプラスミドはその種類に応じて大腸菌内である程度の数になるまで増えます(増える増えないは遺伝子導入に本質的には影響しないです)。

このようにすることで、大腸菌に好きな遺伝子を導入することができます。詳しい手法については別の記事で説明します。

 

 

ここまでの説明では、そもそも大腸菌の性質と遺伝子とDNAの関係がいまいちわかっていない人にとっては不十分だと思います。そういう人たちのためにより根本的なところを説明していきます。

そもそも遺伝子とは何でしょうか。厳密な定義は実はちゃんと決まっていないのですが、ふわっとその機能を言うと「その遺伝子を持つ生物の性質を司る」です。緑色に光るたんぱく質を作り出すような遺伝子を持つ生物は(原則)緑色に光るたんぱく質を作ります。遺伝子を人為的にある生物に持たせることができれば、その生物にある機能を持たせることができます(実際はいろいろあって必ずできるわけではありません) 。

遺伝子の実体は、DNAの配列であることがほとんどです。特定の配列のDNAが特定の遺伝子としての機能を持ちます。つまり、ある遺伝子となる配列を持つDNAを大腸菌の中に入れることができれば大腸菌にある遺伝子を「導入」できた、ということになります。

特定の遺伝子配列を持つDNAを大腸菌に入れるときにプラスミドを使用します。ゲノムDNAは長い上に生存に必須な部位が含まれているため、ある遺伝子を大腸菌に入れたいだけな状況でゲノムDNAを人為的に改変するのは得策とは言えません。一方、プラスミドを入れるときは入れたいDNA配列を持ったプラスミドを大腸菌に入れればいいだけで、大腸菌のゲノムDNAを損なう必要がないので、遺伝子導入にプラスミドを使うのはなかなかいい方法だと言えます。

 

 

ここまで読んでも、DNAの配列が何でありそれがどうして大腸菌の形質(性質みたいなものです)に関わるのかがわかっていない人は釈然としない感じだと思います。そこらへんを解説します。

 

そもそもDNAは「塩基」「デオキシリボース」「リン酸」の三種類の要素がくっついてできた「デオキシヌクレオチド」が複数連なった「デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)」の略称です。デオキシリボース、リン酸はそれぞれ一種類しかありませんが、「塩基」と呼ばれるものには何種類もあります。ヒトや大腸菌のDNAで使われている塩基は「アデニン(A)」「チミン(T)」「グアニン(G)」「シトシン(C)」の4種類です。

 ATGCのうちいずれかを塩基として持ったデオキシヌクレオチドが連なったものがDNAであるため、DNAはGAATTCGCGGCCGC,,,などのようにそれを構成する塩基を順番に読んでいったもので表すことができます。これをそのDNAの配列と呼んでいます。

ヒトや大腸菌の細胞内では、この配列を基準にたんぱく質が作られています。たんぱく質は複数のアミノ酸が連なったものです。複数の酵素や物質が関与したシステムにより、ATGの配列があったら アミノ酸を連ねる操作が開始され、CCGという配列があったらプロリンというアミノ酸が既存のアミノ酸の鎖に連ねられ、TAAという配列があったらアミノ酸を連ねる操作を終了する、といったことがおこなわれています。

生物中において様々な反応を担っている酵素や他の多くのものはたんぱく質でできている、もしくはたんぱく質でできた酵素によって作られているために、どのようなたんぱく質を作るかが生物の性質の多くの部分を担っているとも言えます。つまりどのような配列のDNAを持つかがどのような形質を持つかを大きく決めているということになり、特定の配列を持つプラスミドを大腸菌に入れることでその大腸菌の性質を大きく変えることができるというわけです。

 

 

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