ライゲーション~プリカルチャー

お久しぶりです。前回の記事の続きです。DNAワークの工程について説明しています。

前回の記事と今回の記事でDNAワークの説明が一通り終わります。がんばりましょう(誰に向けて?)(何を?)。

 

 

ライゲーション

ゲル電気抽出で目的のDNA断片を得ることができたら、それらをつなぎ合わせて目的のプラスミドを作り出します。この操作をライゲーションと言います。プロトコルは以下の通りです。プロメガで購入することができるLigaFast™ Rapid DNA Ligation Systemを使っていました。

 UT-Tokyo ligation Protocol

  1. ベクターとインサートの物質量が約1:2、全量が4μlになるように液量を調整しマイクロチューブに入れる。
  2. 5μlの2x rapid ligation bufferを加える。
  3. 3u/μlのT4 DNA ligaseを1μl加える。
  4. 室温で10分ぐらい放置する。

 

トランスフォーメーション

プラスミドが出来上がったらそれを大腸菌に導入します。プラスミドを大腸菌の細胞内に入れなければいけないわけですが、溶液を混ぜるだけで入ることもなく、かといって大腸菌の微小な細胞内に顕微鏡下で注射するわけにもいきません。我々は大腸菌にプラスミドを入れるために「ヒートショック法」という手法を使っていました。これは「コンピテントセル」と呼ばれるプラスミドが入りやすくなるように処理された大腸菌とプラスミド溶液を混ぜ合わせ、熱によるショックを利用して大腸菌内にプラスミドを入れるという手法です。


 UT-Tokyo transformation Protocol

コンピテントセルの作り方

  1. 大腸菌(JM109)を2mlのLB培地で一晩培養する。
  2. 50mlのLB培地に500μlの培養液を加え、50mlファルコンチューブ2本に25mlずつ分注する。
  3. 蓋を軽く締めて30℃で3時間振盪培養し、ODが0.5以上であることを確認する。ODが0.5に達していなかったら培養を続ける。
  4. 培養液をファルコンチューブごと氷中で30分冷却する。この時50mM CaCl2 25mlを同様に冷やしておく。遠心機も冷却しておく。
  5. 蓋を閉めた1.5mlマイクロチューブを60本ほど-80℃のディープフリーザーで冷やしておく。
  6. 3200rpmで5分間遠心する。遠心後は上澄みを捨て、冷やしておいた50mM CaCl2 25mlをファルコンチューブに加え、ファルコンチューブの底のペレット状になった菌体を懸濁する。この時懸濁しながら二つのファルコンチューブの内容物を混ぜる。
  7. 4と同様に氷中で60分冷却する。この時50mM CaCl2/50%グリセロール 溶液5mlを同時に冷やしておく。遠心機も冷やしておく。
  8. 3200rpmで5分間遠心する。遠心後は上澄みを捨て、冷やしておいた50mM CaCl2/50%グリセロール 5mlをファルコンチューブに加え、ファルコンチューブの底のペレット状になった菌体を懸濁する。
  9. 懸濁液を100μlずつディープフリーザーで冷やしておいたマイクロチューブに分注する
  10. 分注した液体が入っているマイクロチューブはディープフリーザーで保存する。

ヒートショック法

  1. コンピテントセルをディープフリーザーから取り出して氷上においておく。
  2. コンピテントセルが溶けてシャーベット状になったらライゲーション産物溶液を10μl加えてチップの先で優しくかき混ぜる。
  3. 氷上で30分静置する。
  4. 42℃で45秒温める。
  5. 氷上で2分静置する。

ライゲーション産物溶液ではなくプラスミド溶液を使う場合は10μlも必要なことはありません(むしろ入れすぎると後の行程で不具合が生じます)。ヒートショックによりなぜプラスミドが大腸菌に入るかはいまいちわかっていないようです。経験上、ヒートショックの時間が長かったり短かったりするとうまくいきません。

 

 

固体培地で培養

トランスフォーメーションしたあとの溶液に含まれている大腸菌には様々な状態のものがあります。目的のプラスミドが導入されたもの、目的でないプラスミドが導入されたもの、プラスミドが導入されていないもの、何らかのコンタミ、などです。このような雑多な溶液中から目的のプラスミドが導入された大腸菌のみを選別しなければいけません。固体培地での培養はそれを目的とした行為です。固体培地は液体LBにアガロース(寒天)を加えることで作ることができますが、液体LBへのコンタミ可能性を防いだり手順を簡略化したりする目的で液体LBのもととなる粉とアガロースから作っていました。

UT-Tokyo agar plate preparation

  1. ビーカーに200mlのmiliq、5gのLBの粉末、3gのアガロース、マグネティックスターラーを入れてアルミホイルで蓋をしてオートクレーブする。
  2. マグネティックスターラーでかき混ぜながら常温で冷やす。
  3. 手で持てるぐらいに冷めてきたら固まってしまう前に適切な量の抗生物質をクリーンベンチ内で入れ(50μg/mlのアンピシリン(Amp)なら200μl、100μg/mlのクロラムフェニコール(CPまたはCAM)なら70μl、35μg/mlのカナマイシン(KAN)なら200μl)、またマグネティックスターラーである程度混ぜる。
  4. クリーンベンチ内で清潔なシャーレ10枚にビーカーから直接注いで等分し、蓋をして固まるのを待つ。
  5. 固まったら使った抗生物質の名前をシャーレに書き込んでアルミホイルで遮光して冷蔵庫で保存する。

 

UT-Tokyo culture on agar plate protocol

  1. CPまたはKANのプレートを使う場合、トランスフォーメーションした溶液に1mlの液体LBを加えて37℃で30分間培養する(回復培養)。AMPの場合はこの行程は省略してよい。
  2. 10000rpmで(この値は適当)1分間(30秒でも大丈夫)遠心する。
  3. 遠心後、上澄みを大部分捨てて懸濁する(残り200㎕ぐらいになるようにする)。
  4. クリーンベンチ内でピペットを用いて液をプレートに移す。
  5. プラスチック製の白金耳で菌液がシャーレ全体に広がるようにして、乾くまで待つ。
  6. 乾いたら蓋をして上下をひっくり返して37℃で一晩培養する(土日を挟む場合は常温で培養する)。

菌体や培養液を固体培地の上に広げた後、適切な環境で放置することで菌を培養できます。固体培地は液体培地とは違い固体であり(当たり前)、培地で増殖した菌が簡単に移動できません。よって、固体培地上のある箇所で1匹の菌が増殖を始めると、その菌が分裂してできた菌は同じ箇所に固まって存在することになります。菌の数が増えると固体培地上に丸い点となって肉眼で観測できるようになります。この丸い点をコロニーと呼びます。最初に固体培地上に広げた培養液の濃度が十分薄ければコロニー同士が重なって存在する確率はとても低いです。コロニーを採取(コロニーピックと呼びます)することで実質的に液体培地中に存在していた菌のうち1匹だけを採取したのと同じになります。

抗生物質への耐性を持っている大腸菌のみがプレート上で増殖できます。抗生物質への耐性は導入したプラスミドによってもたらされるため、トランスフォーメーションの行程を行ってもプラスミドが導入されなかった大腸菌や目的外のプラスミドが導入された大腸菌の一部は増殖できず、目的のプラスミドと同じ抗生物質耐性遺伝子が入ったプラスミドが導入された大腸菌のみコロニーを形成できます。抗生物質耐性が同じだけれど目的でないプラスミドが導入された大腸菌はコロニーの有無では判別できません。判別するためにはPCRを使ったりシークエンスを読んだりするという方法があります。緑色蛍光たんぱく質(GFP)や赤色蛍光たんぱく質(RFP)などを発現する大腸菌はコロニーの色やコロニーの蛍光で判別できます。

 

コロニーPCRによるチェック

PCRの仕組みから説明すると長くなるので別の記事で説明します。

 

液体培地による培養(プリカルチャー) 

固体培地上形成されたコロニーを今度は液体培地で培養します。前述の通り一つのコロニーは1匹の菌由来だと考えられるため、プリカルチャーした培養液中の菌も1匹の菌由来で同一の性質や遺伝子を持つ菌だと考えることができます。プリカルチャーをして菌を液体培地中で増殖させることで、そこからプラスミド抽出を行ったり、保存用のグリセロールストックを作成することができます(別記事で解説します)。

UT-Tokyo preculture protocol

  1. クリーンベンチ内で液体LBを滅菌済みの試験管に2~5ml入れる(量はプラスミドの種類や欲しい菌液の量によって変える)。
  2. 固体培地を作るときと同じ濃度で適切な抗生物質を加える。
  3. 培養したいコロニーをチップの先で軽くつつき、試験管中の液に触れさせる。
  4. 37℃で一晩振盪培養する。

培養液の量が多すぎるとうまく培養できません。ローコピーのプラスミドを抽出するためには一度に10mlぐらい培養したいので複数本の試験管を使って培養することになります。同じコロニーを複数本の試験管で培養するときに試験管ごとにコロニーピックをする必要はなく、一度つついたチップをそのままそれぞれの試験管中の液体LBに触れさせれば大丈夫です。

コロニーをつついたときにチップの先にコロニーがくっついているのが見えなくてもそこにはちゃんと菌がついていてちゃんとプリカルチャーできるので大丈夫です。

試験管の代わりに15mlのファルコンチューブを使っても何とかなりますが、試験管を使った時のほうが菌が元気な気がします。

 

 

以上でDNAワークの各行程についての説明がだいたい終わりました。PCRについては別記事で紹介します(グリセロールストックの作成については別記事で紹介するかこの記事に加筆します)。この説明を見ればDNAワークが一通り行えるかというとそんなことはなく、器具の使い方や保存方法などの情報が足りていないと思います。そこらへんのことについてもやがて書くかもしれません。

前の記事にもこの記事にも図が全然足りないので気が向いたときに描いて入れておきます。

 

完全な説明をしたとはいいがたいですが、これらの記事の内容を一応わかっておくとこれらの記事の内容をわかっていないときに比べて実験の開始とかその他のことがスムーズに進むと思います。

 

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