PCRとグリセロールストック

めちゃくちゃ久々にiGEM関係のことについて書いていきたいと思います。今回はPCRとグリセロールストックの紹介です。この回をもってDNAワークについては一通り解説したということになると思います。


 

久しぶりなのでDNAワークの流れをおさらいするところから始めたいと思います。
DNAワークは次の図のような流れで進んでいきます。

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PCRでのチェックは固体培地での培養の後に行われる工程で、グリセロールストックの作成は液体培地での培養の後に行われる工程です(こちらは図には書いてありません)。これらの原理やそれを行いたい理由、実際のプロトコルについてまとめていきたいと思います。
 
PCR
そもそもPCRとはポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction)の略で、DNA合成の仕組みをうまいこと利用してDNA中のある部分をたくさん増やそうというものです。
 
まずPCRの雰囲気についてざっくり説明します。
何をいまさらみたいな話をしますが、生物の細胞が分裂するときには遺伝子の担体としてのDNAが2つの娘細胞に分配されます。娘細胞が母細胞と同じものになるためには、全体のDNAの量が分裂の前後で倍になっている必要がありますね。実際生物にはDNAを複製する機構が備わっていて、そのシステムを使って細胞分裂に伴い(必ずしも同期しているわけではないが)DNAの複製を繰り返しているわけです。
このシステムをうまいことDNAの一部分に使えないかなあというのがPCRのモチベーションです。もしDNAのうち狙った部分だけを増やすことができたら、反応や測定に不十分な量しかない特定のDNAを各種反応や測定に必要な量まで増やすことができます。これは便利です。
べつに新しい手法がなくたって同様のことが「大腸菌に特定DNAが入ったプラスミドを導入→培養→miniprep」でもできるじゃないか、ということを思う人がいることと思いますが、これが通用するのは増やしたいDNAがちゃんとしたプラスミド中に含まれていることが前提であり、またそのDNAが大腸菌にとって致死的な遺伝子であったりする場合はプラスミドがちゃんとしていても大腸菌が死んでしまって増やせない、ということになります。大腸菌の増殖に伴ってプラスミドが増えるのも生物にもともと存在する複製機構を使っているわけで、その機構だけを取り出せばもっと効率いいじゃん?というのがPCRです。
また後述するようにPCRは特異的な配列だけを複製することができるため、DNAの複製目的以外にも使い道があります。「A」という配列を増幅させる操作を2つのDNA溶液BとCに対して行い、BのほうではAが増えたのが確認できたがCのほうではAが増えた様子がない、という場合にはB中のDNAには「A」という配列が存在していて、C中のDNAには「A」が含まれていない、ということがわかります。つまりDNA中に特定配列が含まれているかどうかのテストにPCRを利用できるわけです。DNAワークではこの用途が主になることと思います。

PCR反応の材料は主に
・増やしたい配列を含むDNA
・プライマー2種類
・DNA合成の原料になる各種ヌクレオチド
・DNA合成酵素
です。これらが何でどのように働くかは反応を解説しながら説明していきます。

DNAは2本がペアになった2重らせんの形で存在しているというのは知っていると思いますが、実はそれぞれのDNAには向きが存在します。DNAを構成する糖の炭素の名前から片側を5'側、もう片側を3'側と呼びます。2本のDNAは図のように逆向きになるようにペアになっています。こういうのを逆平行といいます。

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DNAが複製される時には、3'末端に新たなヌクレオチドの5'側が結合する形、つまりDNA鎖としてみると5'側から3'側にしか合成されません。また、DNAポリメラーゼが相補的なDNAを合成していくためには、新しく伸長するDNAの5'側に既に相補的に結合したDNAかRNAが存在している必要があります。1本鎖のDNAのみがただ存在していた場合、DNAポリメラーゼは相補的なDNAを作り出すことができません。DNA合成の起点となる小さなDNAをプライマーといいます。

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生体におけるDNA複製にはほかにもいろいろ考えるべき要素がありますがここではそれを割愛して、さっそくPCRの話に移りたいと思います。

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図の左のDNAについて、緑で囲った部分をPCRで増幅したいとします。こういう場合は、増やしたい領域の両鎖の3'側と相補的なプライマーを用意します。右の図で青と紫で示したものです。縦の灰色の矢印は相補的であることを示しています。

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これはPCRの1サイクル目の図です

まずプライマーたくさん、増やしたい配列を含んだDNAを少量、DNAのもとになる各種ヌクレオチドたくさん、DNAポリメラーゼなどを入れた液を用意します。(1番目の図)
この溶液を95℃とかまで加熱するとDNAの相補的な水素結合が熱で外れます(2番目の図)
そのあとまた温度を60℃とかまで下げると再度相補的な結合がつくられます(アニーリングといいます)が、存在比からそれぞれのもととなるDNAはプライマーと結合します(3番目の図)
DNAポリメラーゼがプライマーを起点にDNAを伸長させます。(4番目の図)
これで1サイクル目が終わりました。DNAの複製は行われたけれど、増やしたい部分が増えたという気はしませんね。2サイクル目も見てみましょう。

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2サイクル目

先ほどの図の終わりから続いています(1つ目の図)。相補鎖を解離させ(2)、プライマーを結合させ(3)、DNAポリメラーゼがDNAを伸長させます(4)。
今回は短いDNAができました。これは両端がプライマーの位置になっているため、増やしたかったDNAそのものです。目的のものができましたね。わーい。
3サイクル目以降も見てみましょう
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2サイクル後の状態、3サイクル後の状態、4サイクル後の状態

どんどん目的のDNAが増えていってるのがわかると思います。この調子でいくと何サイクルもしたら目的のDNAがたくさんになってそうですね。
ではそれぞれのDNAについてその量を具体的に考えていきましょう

もともとの長さのDNAはPCR反応で増えることがないので
{ \displaystyle
a_n = 2
}
定常的に2本です

一端がプライマーでもう一端が長く伸びたDNAの本数は
反応1回ごとにもとのDNAから作り出されるので
{ \displaystyle
b_n = \sum_{k=0}^{n-1} a_k
}

{ \displaystyle
b_n = 2n
}
nサイクルが終わると2n本になります

では両端がプライマーの目的とする配列のDNAの本数は
反応一回ごとに(一端がプライマーのもの)+(両端がプライマーのもの)本増えるので
{ \displaystyle
c_n = 2c_{n-1} + b_{n-1}
}
あれこれどうやって計算するんだとなり(階差数列を取れ)

その考え方するよりも全体からいらないものを計算すればいいじゃんということに気づき、
反応一回ごとに全体のDNAの本数は2倍になるので、

{ \displaystyle
c_n = 2^n - a_n - b_n
}

{ \displaystyle
c_n = 2^n - 2n - 2
}
ですね。

目的DNAだけnのべきで増えていくので、回数を重ねればいらないものが無視できるぐらいに目的DNAの比率が高まっていくことがわかると思います。それぞれのDNAの長さが違うため、電気泳動を行えば目的のDNAだけが取り出せます。
ここまで読んで、DNAポリメラーゼはタンパク質なんだから90℃とかにしたら熱変性して使い物にならないんじゃないの?と思った人もいるかもしれません。普通のDNAポリメラーゼだったら失活してしまうんですが、温泉とかに住んでいる熱にクソ強い古細菌のDNAポリメラーゼを改良したものを使っているので大丈夫です。熱にクソ強いDNAポリメラーゼが発見されるまではサイクルごとに酵素を取り換えていたから大変だったらしいです。


ではDNAワークにおいてPCRがどのような時に使われるかの話をしていきたいと思います。
もちろん特定のDNAを増幅させるために使われることもなくはないですが、DNAワークの一連の流れで使われる場合には、insertとなる部分の塩基対数のチェック目的で行われることが多いです。
トランスフォーメーションを行い固体培地に菌液をまいて一晩培養し、さあ翌日コロニーが生えてきたぞという時に、果たして生えてきたコロニーは本当に狙ったプラスミドが導入されたものなのか、それとも狙ってないやつなのかというのがわからない状況になることは多いです。正しいプラスミドが導入されていたらコロニーの色が変わるはずとかならわかりやすくていいのですが、毎回そういうわけにもいきません。
そんな時に全てのコロニーに関してプリカルチャーを行って次の日にミニプレップし制限酵素で切断して電気泳動してバンドを見て初めて挿入された遺伝子の長さがわかる、というのは効率が悪いです。全部のコロニーで狙った遺伝子導入が成功しているならプリカルチャーを行うのは1つのコロニーだけでいいし、失敗しているコロニーについてプリカルチャー~ダイジェスションまでの操作を行うのは無駄だし、成功したか失敗したか判断するのに1日かかることになります。
そこで活躍するのがコロニーPCRです。これはプレート上のコロニーを直接PCRにかける方法で、わりと楽にできます。ちょっとした仕組みとプロトコルを紹介します。
biobrick規格のプラスミドにはVF2とVRという部分があると以前の記事でちょびっと触れました。これはプライマーが結合する部位で、これがbiobrickの規格に含まれていることにより、全てのプラスミドが同じプライマーのセットでPCRにかけられることになります。わざわざプライマーを選んだり考えたりしなくていいのはだいぶ楽ですね。
コロニーPCRにかけたサンプルはそれぞれ電気泳動にかけます。そのバンドの位置を見ることで目的のプラスミドが導入できているかをチェックできるということになります。もしうまくいっていた場合、そのコロニーをプリカルチャーすればいいということがわかるので手間がだいぶ減りますね。しかも結果がその日にわかるということは重要で、もしも上手くいっていなかったら前日と同じ操作をダイジェスションからやり直せるのでロスが1日ですみますが、結果がわかるのが次の日になると2日ロスすることになります。実験が進んでくれば進んでくるほどコロニーPCRは大事になってくる気がします。

具体例を出して説明します。アンピシリン耐性でRBSが乗ったプラスミドをベクターにして、クロラムフェニコール耐性のプラスミド由来のGFP-lva遺伝子(プロモーターなどは含まれていない)を挿入することを考えます。まず2つのプラスミドを適切に切断するわけですが、切断が完全にうまくいかなかった場合には、もとのアンピシリンプラスミドがコンタミする可能性があります。
狙ったプラスミドに元のプラスミドがコンタミしている溶液でトランスフォーメーションを行うことになるわけですが、これらのプラスミドの抗生物質耐性遺伝子はどちらもAMP耐性のものであり、プレートに含まれる抗生物質で選択することができません。できるコロニーの様子は目的のものとコンタミしたもので変わりません。こんなときにコロニーPCRを使います。数あるコロニーの中から適当にいくつか選んでプレートの裏からマジックで番号をつけておきます。選んだコロニーについてコロニーPCRを行い、終了後電気泳動を行ってバンドの様子を確認します。もしバンドが1100bpぐらいのところに見えていたらそのコロニーは目的のもので、350bpぐらいのところに見えていたらそのコロニーは目的のものではありません。GFPlvaの遺伝子は750bpぐらい、VF2からGFPの遺伝子の始まりまでは140bpぐらい、GFP遺伝子の終わりからVRまでは170bpぐらいなので、GFPlvaが入っているプラスミドの場合は合計して1100bpぐらいのDNAが増幅されることになります、一方コンタミしたものの場合はだいたい350bpぐらいのバンドが出ることになります。
biobrick規格のプラスミドにVF2とVRでPCRを行った場合、乗っけているものの塩基対数+300ぐらいのバンドが出ることになりますね。

プロトコルです。プロメガ社でGoTaq Green Master Mixを購入して使っていました。これはプライマーと水とDNAを適量まぜるだけで使えるように調整されたもので、PCR産物をそのまま電気泳動に流せます。便利でした。

1. 次のものを混ぜる miliq 3ul/sample
2x GoTaq Mix 5 uL/sample
10x VR 1 uL/sample
10x VF2 1 uL/sample

合計 10uL/sample (※分注時のロスを考えて1サンプル分余分に作る)

2. 10ulずつPCRチューブに分注する
3. コロニーをチップの先で触れてチューブ内の液をピペッティングする
4. PCRの機械を次のようにセットする

5℃ 3 min
*95℃ 30 sec
*52℃ 30 sec
*72℃ 1 min/1000bp
72℃ 5 min
*の部分は30回繰り返す
4℃ forever

5. サンプルをラダーと共に電気泳動する






グリセロールストック
グリセロールストックは大腸菌を保存するためのものです。切断したDNAやプラスミドは-30℃で保存できるわけですが、グリセロールストックという形にすることで大腸菌そのものを-80℃で保存することができます。
遺伝子を構築していく途中の段階のものを逐一グリセロールストックの形で保存していくことで、間違いがあってもその直前の段階からやり直すことができたり、既に作ったものに似ている遺伝子を作るときに途中までをスキップできたりします。1回のミニプレップでとれるプラスミドの量には限りがありトランスフォーメーションが必ず成功するとは限らないのに対して、グリセロールストックは1度に大量にできる上に菌の形で保管するので確実に液体培養で増やすことができるというメリットがあります。またプラスミドよりもたぶん保存性が高く、2年前のものも普通に使うことができました。

DNAワークの流れのうちでどのタイミングでグリセロールストックを作成するかですが、プリカルチャー時にグリセロールストック用の培養液も別で作るという形で流れに組み込まれます。
作られたグリセロールストックを使用する場合は、通常のコロニーから液体培養を行うときと同じように、凍結しているグリセロールストックの表面をチップの先でこすって液体培地に接触させればOKです。

プロトコルです。全部半量でやっても大丈夫っぽかったです。
1. 滅菌されたスクリューキャップ付きマイクロチューブに300ulの50%グリセロールと700ulの培養液を入れる
2. -80℃で保管する



これでDNAワークの流れの説明が一通り終わりました。このブログに書いてある実験手法はあくまで経験談でしかなく、手法が本当に正しいのかは確信が持てないので(全くうまくいかないということはないですが)、研究室の人とか過去に経験がある人に聞黄ながらやるといいと思います。あくまで参考として、もしくは新メンバーに実験の流れを解説するときなどに使ってください。

nemontemi.hatenablog.com