プラスミド抽出~ゲル抽出
こんにちは。今日もやっていきましょう。
前回の記事でDNAワークの大枠について説明しました。前回の説明の順番とは違いますが、今回はプラスミド抽出からゲル電気泳動までの行程の解説や実際やった実験の手順の説明をしていきたいと思います。
長くなります。
プラスミド抽出
プラスミド抽出は、大腸菌の培養液から大腸菌の持つプラスミドを取り出す作業のことです。プラスミドを大腸菌から取り出すといっても大腸菌の細胞に穴をあけてそこからプラスミドだけを引っ張り出すというようなことはできません。大腸菌を破壊し、ごちゃごちゃになった液からプラスミドだけを抽出します。
大腸菌培養液中にあるプラスミド以外の成分は様々です。まず培養液の成分があり、他にも大腸菌の細胞膜由来の脂質、大腸菌の体を構成したたんぱく質、大腸菌のゲノムDNAなどの様々な不純物があります。これらを取り除かなければいけません。
一般的なプラスミド抽出の方法として、ボイル法やアルカリ法があります。どちらの手法においても、まず脂質やたんぱく質を取り除き、プラスミドだけを取り除きます。これらの手法について詳しい説明は省きます。検索してみてください。
我々はもっと手順が簡略化された方法をとっていました。
プロメガ社というところで発売されている、Wizard® Plus SV Minipreps DNA Purification System(販売しているサイト)ものを使っていました。これはプラスミド抽出に必要な薬品などをセットにしているキット商品です。正式なプロトコルはここ(pdf)にありますが、今回は我々がどうやっていたかを紹介します(時間短縮や簡略化のため正式なプロトコルと比較して一部の過程を省略したりしています)(これはほかの手順でも同様です)(実際実験しない人は読み飛ばしても全然問題ないです)
UT-Tokyo miniprep Protocol
- 大腸菌培養液2ml~10ml(プラスミドのコピー数による)を15000rpmで1分遠心分離し、上澄みを丁寧に吸い取って捨てる。
- Cell Resuspension Solutionを250μl加えてボルテックスミキサーで大腸菌のペレット(遠心したことで沈殿して下部に残った塊)を完全に懸濁する。溶けにくそうなときはさきにピペッティングしておく。培養液の液量が多く複数のチューブで分けて作業を行っていた時は、この過程を行いながら液を1つのμチューブに集める。(Cell Resuspention Solutionは合計で250μl)
- Cell Lysis Solutionを250μl加えて何回か転倒混和する(液の入ったマイクロチューブなどの蓋を閉めて上下を反転させることで穏やかに混ぜる)。2分ぐらい放置する。
- Neutralization Solutionを350μl加えて数回転倒混和する。(たんぱく質(たぶん)が白く凝固する)
- 15000rpmで10分間遠心する。
- 遠心前に白く凝固していたものがマイクロチューブの壁面に付着する。それらにピペットの先が当たらないようにしながら上澄みをきれいに取りきってCollection Tubeに差し込んだSpin Collumに移す。
- 15000rpmで1分遠心し、その後Collection Tubeにたまった液を捨てる。
- 750μlのColumn Wash Solutionを加える。
- 15000rpmで1分遠心し、その後Collection Tubeにたまった液を捨てる。
- 250μlのColumn Wash Solutionを加える。
- 15000rpmで5分遠心し、その後Spin Columnに液体成分が付かないように注意しながらマイクロチューブに移し替える。
- 100μlのNuclease Free Waterを加えて1分静置する。
- 13000rpmで1分間遠心する。
- Spin Columnを捨て、吸光測定器で核酸濃度を測定する。
- チューブにサンプル名と日付を書き-30℃の冷凍庫で保存する。
制限酵素による切断
制限酵素による切断の目的は今まで説明したとおりです。おさらいとしてもう一度さらっと書くと、2つのプラスミド上の遺伝子つなげて1つのプラスミドを作るために、うまいことできている規格のプラスミドを適切な制限酵素を使って2か所切断します。ここでは具体的な実験のプロトコルについて書きます。
制限酵素など実験に使用する酵素には基本的に対応するバッファーというものがあります。これは酵素を安定化させたり酵素の働きを助けたりするものです。一つの酵素を使うときには対応するバッファーを使えばいいのですが、biobrickプラスミドのDNAワークでは同時に二か所を切断するため、時間削減もかねて同時に二種類の制限酵素を使用することになり、二種類の制限酵素どちらにも相性がいいバッファーを使う必要が生じます。EcoR1, Xba1, Pst1は全部bufferHと呼ばれるバッファーでいいのですが、Spe1だけはbufferHを使うことができず、bufferBを使うことになります。しかしbufferBではEcoR1とPst1の効率が落ちてしまいます。あとSpe1は他のものに比べて高価であり、かつ熱などで失活しやすい気がします。困った子。
UT-Tokyo digestion protocol
- 反応を行うためのマイクロチューブを用意する
- プラスミド溶液中にプラスミドが約500ng含まれるように溶液を取る(max 17μl)
- 対応する10x bufferを2μl入れる
- 対応する制限酵素を2種類0.5μl入れる
- 全量が20μlに満たない場合、全量が20μlになるようにmiliqを加える
- 37℃で3時間ぐらい反応させる
以上の反応を行ってもすべてのプラスミドが切れるわけではありません。プラスミド量が多すぎると目的のDNA断片がほとんど得られないことがあります。あと理由はわからないけどなぜか切断できない、みたいなことも多々ありました。制限酵素は失活しやすいため、基本的には-30℃の冷凍庫で保存します。しかし、実験操作を行うためには冷凍庫から出す必要があり、少しでも失活を抑えるために冷凍庫から出している時間を極力短くしたり冷凍庫から出ているときでも室温に置くのではなく氷上で管理する、などの努力が必要です。これを怠るとすぐ失活して全然切れなくなってしまいます。気を付けましょう。
ゲル電気泳動
制限酵素で切断する反応が終わった後、溶液中には何種類かのDNA断片が存在しています。目的のDNA断片、それと反対側のDNA断片、1か所しか切断されなかった断片、1か所も切断されなかったプラスミド、その他ごちゃごちゃしたものなどです。これらごちゃまぜの溶液から目的のDNA断片のみを取り出す必要があります。ゲル電気泳動ではDNA断片がその長さによって分かれます。原理を簡単に説明します。
DNAは糖・塩基・リン酸の三要素によって構成されていますが、このうちリン酸の部分は負に帯電しています。よってDNA溶液に電位差を生じさせればDNAをプラス側に集めることができます。
アガロースゲル(寒天です)は繊維が絡まってできているゲルです。直鎖DNAがこの中を通過する時、短いDNAは長いDNAよりもゲルの繊維に絡まりにくいため、短いDNAは長いDNAよりも早く通過することができます。
これら二つのことを利用して、複数の長さの直鎖DNAが混ざっている溶液をアガロースゲルに空いた穴に入れ、電圧をかけてゲルの中を泳動させてDNAをその長さに応じて異なる位置に存在するようにするのが電気泳動です。電気泳動したDNAの位置を肉眼で観察することはできないので、あらかじめDNAに結合する蛍光色素をゲルに混ぜておき、プルーライトを当てて蛍光させることでDNAの位置を確認します。この時DNAが光って見えるものを「バンド」と呼びます。
DNA断片の長さは他のDNA断片との位置の比較でしかわからないため、既知の長さを持ったDNA断片を同時に泳動します。この既知の様々な長さのDNA断片が含まれた溶液をラダーと呼びます(泳動結果がはしごみたいになるからです)。
直鎖上DNAはこの方法でうまくいくのですが、プラスミドはこの方法で似たようにうまく選別することができません。ゲル電気泳動を行うためには直鎖であることが必要です(たぶん)。プラスミドは前述のラダーで長さを測れないだけではなく、同じ長さのプラスミドでもバンドが2か所に出ることがあります(これはプラスミドのDNA鎖が完全な時にはスーパーコイルという形態をとるけれどDNA鎖に切れ目が入っているとスーパーコイルがほどけて単純な輪っかになるかららしいです)。
以下プロトコルです
UT-Tokyo gel electrophoresis protocol
ゲルづくり
- フラスコに入れた200mlのTAEに重量%が1~2になるようにアガロース粉末を溶かす。泳動したいDNAが長いときにはアガロースが薄く、短いときには濃くなるようにする。
- アガロースが溶けるまで突沸に注意しながら電子レンジで加熱する。
- アガロースをある程度冷ます。
- 10μlのエチジウムブロマイドを加える。
- ゲル作成用のトレーに流し込む。コームを忘れないようにする。
- 冷めて固まるまで待つ。固まったらコームを外し、TAE溶液に浸かるようにして冷蔵庫内のタッパーで保存する。
- 制限酵素処理が終わった溶液に4μlの6x loading bufferを加える。
- ラダー5μlに1μlの6x loading bufferを加える。
- アガロースゲルを泳動槽にセットして浸るぐらいまでTAEを注ぐ。
- ゲルに空いた穴(ウェル)にラダーとDNA断片溶液を注入する。
- 100Vで30分ぐらい泳動する
ゲル抽出
ゲル電気泳動したあとそのゲルを確認するとバンドが見えます。バンドはそれぞれ特定の長さのDNAが光って見えるものなので、目的とするDNA断片の長さのバンドをとってくれば目的とするDNAを得ることができます。その「目的とする長さのバンドをとってくる」のがゲル抽出です。略して「ゲル抽」と呼んでいました。
ゲル抽出ではバンドが見える部分のゲルを切断し、ゲルと目的DNAが混ざったものを確保した後、抽出する操作を行ってDNA断片以外の不純物を取り除きます。得られたDNA断片溶液はそのまま次のライゲーションに使えます。
実際の実験手順はプラスミド抽出の時と似ていて、UT-Tokyoではプロメガ社から販売されている Wizard® SV Gel and PCR Clean-Up Systemを使用していました。
以下プロトコルです。
UT-Tokyo gel purification protocol
- ブルーライトでバンドの蛍光を確認しながら目的のバンドをミクロスパーテルで切り取る。
- 1.5mlのマイクロチューブに切り取ったゲル断片を入れ、400μlのMembrane binding solutionを加える。
- 60℃でゲルが解けるまで温める(10分ほどかかる)。時々ボルテックスミキサーで混ぜる。
- Collection tube上にセットしたSpin collumに移し、1分放置する。
- 15000rpmで1分遠心し、Collection tubeに溜まった液を捨てる
- Collum wash solutionを750μl加えて15000rpmで1分間遠心し、Collection tubeに溜まった液を捨てる。
- Collum wash solutionを500μl加えて15000rpmで5分間遠心し、Spin collumが乾燥している状態を保ったままマイクロチューブに移し替える。
- 20μlのnuclease free waterをSpin collumに滴下する。この時Spin collumの底がまんべんなく濡れるようにする。
- 1分間放置したのち、12000rpmで1分間遠心する。
- Spin Columnを捨て、吸光測定器で核酸濃度を測定する。
- チューブにサンプル名と日付を書き-30℃の冷凍庫で保存する。
ここからライゲーションへつながりますが、今回の記事は以上です。